昨日の酒のせいか、腹の具合が悪い。トイレにこもっていると、個室の外から文句が聞こえてきた。「アイツ、いらなくない?古いやり方にこだわってさ」「チャレンジ嫌いだよね」「保身だろ」「いやいや馬鹿なだけでしょ」。どうやら、他部署の部長をディスっているようだ。うるせえよ。自分のことを言われているわけでもないのに頭にきた。主語を自分に変えても違和感のない話だったからだろう。変わりたいなあ。スマホをポケットから取り出し、根岸にラインを送った。
1週間後、根岸は待ち合わせの喫茶店に現れた。根岸は高校時代の同級生で、サラリーマンをしながらNPOの代表を務めるなど精力的に活動している。話すことより、聞く方が上手なタイプだ。
コーヒーを注文すると、僕は思い切って現状の不満と将来の不安を伝えてみた。根岸は「マツシタらしくない。とりあえず、動いちゃうタイプだったろ」と励ました。「今、NPOで前橋の中心市街地の一軒を管理している。そこで商売を初めてみないか」と提案してくれた。商売に憧れはある。しかし、一体いくらお金を用意する必要があるのか。定年退職したサラリーマンが退職金を溶かしてしまった話を聞いたことがあるし不安だ。「うちのNPOを使えば、そこまでお金はかからない」。根岸の詳しい説明が始まった。